水旅


絵を描き物語を書きに水の流れを遡った

奥に着いたら社会の気配がなくなった
かわりに原始があった
生活の起点の記憶が沸騰した
確かな太古の記憶生々しく

水がやむことなく湧き
剥がれた芭蕉の苞で器をつくり
自生するクレソンをほおばり
枯れた芭蕉の皮を流れにさらして
糸を撚り布を作り首飾りもつくり
風ふけば枯葉がこすれ低音がもちあがり
カワセミを見て色を知り
太陽にあたためてもらい
西陽に不安を溶かしてもらい
夕方になれば冒険をやめて眠り
芭蕉に囲まれたほんとうに小さい場所は
もうずっと前から家で
言葉もクッキリしない太古にいたから
喋ることもなく

まいにち新生しながら
原始時代へむかうこと

あーずっとこういうことをしたかった
裸足で水を歩いて
古いとこへさわりにいく

ぜんぶがあって
しあわせな旅だったな

2023.03.20